測るの物語測るの物語

ブルーオーシャン

ところ変われば、モノの売れ方は一変する。トイレットペーパーひとつとっても関西ではシングルが売れ、関東ではダブルが売れる。中古住宅の市場においても同様で、物件に対する考え方は地域によってガラリと変わる。
2013年、札幌という街ではかつて中古マンションは1,000万円以下が主流。リノベーションといっても、クロスの張り替えと水廻り設備の入れ替え程度の簡易的なものが中心だった。
そんな街で、施工品質と居住性能を高めたリノベーションにより “マンションの付加価値を上げる ”という考え方を浸透させ、市場を一変させたのがインテリックスの河野である。
「内装にかける額も市場に出てくる価格も首都圏と大きく違いました。道外から買い取り業者が進出しては撤退を繰り返す状況で、『本当に売れるのか?』という怖さがありましたね」
競合相手のいない市場─いわゆる “ブルーオーシャン ”だが、インテリックスの本格的な地方進出はこの時が初。ノウハウもない中、机ひとつのレンタルオフィスを借り、たった一人で営業をスタートした。「仕入れ面では、数多い買い取り業者の中でいかに仲介業者と関係を作るかに注力しました。オープンハウスをやっていれば顔を出す…といった感じで。インテリックスの知名度はほぼゼロでしたが、首都圏でつながりのある大手仲介会社から紹介していただき助けられましたね。本社のような内装の専門部署もないため、施工店とは私が直に話し、設備仕様を細かく打ち合わせました」

札幌と東京の営業活動の違いについて、河野は「ない」と即答する。地道に足を使って得意先を回り、信頼関係を築いていくこと。それを何よりも大切にした。すると、当初は「よそ者」に拒絶反応を示した施工店も、次第にインテリックスのものづくりを理解し信頼を寄せるように。親交を深め、仲介業者を物件に呼べるようになると、仕上がりのクオリティに感動し、お客さまを優先的に案内してくれた。こうして、手探りで売りに出した物件は予想以上の速さで成約。札幌の中古住宅市場に品質の高いリノベーションマンションが浸透していった。

北海道は外から来た人間に寛容な土地柄といえど、これは並大抵のことではない。地方にとって、東京の会社の進出は「巨大資本で荒らされるのでは?」という恐怖感を伴う。その中で成功したのは、一つ一つ構造や状況が異なるマンションを細かく測り丁寧に施工するように、人間関係を誠実に構築していった河野の努力あってこそといえよう。そんな河野は現在、営業第五部長として、福岡店、広島店を統括している。首都圏とも、札幌ともまた違う文化をもつ新たなステージで、次なる挑戦が始まった。

Illustlation : Toshimasa Yasumitsu