首都圏を中心に、全国のリノベーション済物件の情報が集まる不動産売買のプラットフォーム「FLIE(フリエ)」。その大きな特長は「仲介手数料が最大無料」であること。現在、利用者を大幅に増やし続けているサービスの躍進を支えているのが、同社の代表を務めている井上だ。
「『業界の慣習』に対する疑問がサービスの出発点です。新築では仲介手数料がかからない一方、中古物件では必要となる。私どもが扱う物件の多くはリノベーションにより新築と同等かそれ以上に機能向上しているにも関わらず、仲介手数料をいただく必要性があるのか? と」。フリエを介した成約率は、実に大手不動産情報サイトの倍以上。いま多くのカスタマーに選ばれているサービスだ。「買主側にも、透明性の高い情報を提供したい」と語る井上。今後も消費者の賢い選択が進めば、不動産業界の古い慣習が変換点を迎える日はそう遠くない。
井上にはひとつのポリシーがある。システム・オペレーション構築をよりスピーディーに完遂することだ。他の企業が1年かかるプロジェクトであれば3ヵ月。実に約4倍の速度で実践している。「損害保険業界で外資系メーカーに向けたシステム・オペレーション構築を行っていましたが、日本のスピード感では相手にされない。理想の実現のためにビジネスを絶対に止めません」。
インテリックスの俊成社長にヘッドハントされ、2023年7月にグループ会社であるFLIE代表に就任すると、10月には不動産会社向けDX支援パッケージ「FLIE ONE(フリエワン)」を販売。社長就任後2か月でフリエ利用中の売主をほぼすべて回り、各社より営業の「リソース不足」という課題を認識した。「仲介会社から物件に問い合わせが来れば、資料請求や広告承諾への対応を行い、内見希望が入れば日程調整や鍵の手配確認を行う。こうした作業に追われ、売主企業は肝心の営業活動に時間を割けないのです。そこで、専用のQRコードから物件確認ページにアクセスするだけで内見予約から広告承諾、資料提供までWeb上で完結するシステムをつくりました」。
実証実験では、約67%の問い合わせ業務の時間を削減。人手不足が問題視される不動産業界においてイノベーションを実現した。
井上は、相手の想いを測ることを重視する。売主、買主、仲介業者それぞれが抱える課題をすくい上げ、解決を目指した先に明るい未来があると話す。2024年5月にはスマートロック「SESAME」を手掛けるCANDY HOUSE JAPAN株式会社と資本業務提携を締結。新サービス「Smaview2.0」を展開予定だ。マンションの専有部にスマートボットを設置し、同部が無人の状態でオートロックの解錠を可能とする仕組みで、買取再販業者や施工業者をはじめ、マンスリーマンションや貸し倉庫といった業界からも注目度が高い。キーレス化はオートロック住居に対する置き配達も叶え、2024年問題として運送業界で深刻化するドライバー不足や再配達といった課題の解決に寄与する可能性も秘めている。破竹の勢いで事業を展開し続ける井上。「そろそろ、ゆっくりしたい」と笑いながらも、次なるプロジェクトへと突き進んでいる。