君島喜美子さんの考える「豊かな暮らしと住まい」とは(前編)
2023.07.27 これからの住まい#2重サッシ#サスティナビリティ#リライフプラス#中古マンションを買ってリノベーション#中古を買ってリノベーション#断熱材
住まいや暮らしの価値観が多様化し、めまぐるしく社会の変化と技術革新が進んでいく現在。そのなかで、日々感じる暮らしの「幸せ」や「豊かさ」とは何なのかを測るために、各分野の専門家などの方々にお話を聞いていきます。
今回お話をお伺いしたのは、リノベーション専門誌「relife+(リライフプラス)」で編集長を勤め、長年リノベーション業界に携わってきた君島喜美子さん(以下、君島さん)。多くの方の住まいや暮らしに触れてきた君島さんが考える“幸せな家”や、次のライフステージで住みたい家など、住まいの専門家の“理想の家”についてお話をお伺いしました。
■「幸せ」を感じるのは校了日とお散歩タイム
今までで1,000件以上の住まいを訪問し、さまざまなご家族の暮らしを取材してきた君島さん。日常のなかで「幸せ」を感じるのはどんなときかを聞いてみると、まず返ってきたのは「『relife+』が校了した瞬間かな」という編集長らしいお答え。
「あと、雑誌に掲載する住まいをいい形で撮影/取材できたときも幸福感あります。住まいも施主さんもみなさん素敵なので、取材に行く度、毎回幸せですね(笑)
仕事以外だと、お散歩しているときも小さな幸せを感じるかな。お散歩といっても結構長距離で、夫と片道2時間くらい歩くので、お散歩というか“旅”という感じ。自宅のある中野から赤羽まで歩いて、電車で帰ってくる、みたいな休日が多いです。皇居まで歩いて皇居のお庭に癒されたり、取材先で教えてもらった気になるスポットに行ってみたり、毎回ひとつテーマを決めてお散歩をしています。途中で思いがけず出会えた景色にも、ささやかな幸せを感じますね」
と、仕事もプライベートも、小さな幸せが散りばめられた日々を送っているようだった。
■規則正しい暮らしが「幸せ」のベースに
そんな君島さんに「幸せ」でいるために何か日々心がけていることはあるかを聞いてみた。
「規則正しく生活をすることですね。ストレスをためないように、あとは体調を崩さないように、変わったことはしないし、無理もしない。なので、朝はほうきで掃除をするとか、毎日5年日記を書くとか、ルーチン化しているアクションが多めです。あとはイヤなことがあったら寝る、というのも自分のなかの決め事。イライラしたらひとまず寝て日をまたぐことで、頭がスッキリして冷静になれます」
と話す君島さん。「幸せ」のベースには、いつもと変わらない日常、そしてストレスフリーかつ健康でいることが必要だという。
■自宅の最重要条件はアクセス良好な「立地」
ここで気になるのは、君島さんの「幸せ」な暮らしの拠点でもあるご自宅。どんな住まいに住んでいて、どんなところが気に入っているのかを伺ってみると、「今の住まい、居心地はよくないけど、愛着があって引っ越したくないんですよね」という気になるひとこと。
「30歳で結婚したときに住み始めて、もう22年。中野にある小さな戸建ての賃貸で、なにしろ立地が気に入っています。都内をはじめ、あちこちに取材に行くので、交通アクセスの良さはすごく大事。さらに、娘が通っていた保育園~中学校はすべて徒歩10分圏内ですし、広い公園も近くにあるし、買い物施設も豊富。子育てしながら仕事を続けていたので、この立地には本当に助けられました。
ちなみに、家の中はとてもお見せできないし、リラックスできるような空間でもありません(笑) でも、長く住んでいるからか、愛着はすごくある。立地メリットもあるし、大学生の娘が独立したあとも、できるだけ長くここに住みたいと思えるんですよね」
と、立地重視派の君島さん。素敵な住まいをたくさん見てきたからこそ、ご自宅もさぞや……と思いきや、「自宅は雨風がしのげて、基本的な設備があればいい」という言葉さえ出てくる意外な展開に。
「とはいえ、お気に入りスペースもありますよね?」と聞いてみると、ダイニングチェアの話を聞かせてくれた。
「過去に取材した厚木にある 北欧家具taloの店主さんがとっても素敵な方で、『この人から買いたい』と思って、ボーエ・モーエンセンのダイニングチェアを購入しました。もう購入して10数年経ちますが、今も大事に愛用していて、わたしたち家族とともに年を重ねているところです」
■子どもの独立後は夫婦で団地住まいを
今の住まいから引っ越したくないという話もあったが「もし次に住み替えるならどんな家で、どんな暮らしをしたいか」と聞いてみると、これまた意外なお答えが。
「次に住むなら、団地がいいな。2012年に『relife+』の団地特集をしたときに出会った 『団地生活デザイン』の山本誠さんから団地暮らしの魅力をお聞きして、いつか緑豊かな団地に住んでみたいなと思うようになりました。
内装に凝ったリノベをしたいという欲はなくて、それよりは断熱や窓の性能をしっかり整えて、快適に暮らせることを重視したいです」と、次の住まいに掲げる理想も予想外のものだった。
さらに、「あと最近、団地に住んでいる建築家のご夫婦を取材したのですが、お風呂にバスタブがなくてシャワーだけだったんです。その理由が『高齢になると湯舟をまたげなくなるから』だと聞いて、衝撃的でした。お風呂に入りたいときは銭湯に行くみたい。この話を聞いて、このご夫婦のような暮らしがしたいな、と改めて団地暮らしに惹かれましたね。足りないものは外で補えばいい、みたいな考え方、好きなんです」
と君島さんは続けた。湯舟がなければ、銭湯へ。庭がなければ、公園へ。ワークスペースがなければ、カフェへ。家のなかにすべて揃っている必要はないから、家にすべてを求めなくていい。たくさんの住まいを見てきた君島さんだからこそ、このような「自分に本当に必要な住まいの要素」を見いだせたのだろう。
さて、次にお聞きしたのは、長年リノベーション業界に身を置いてきた君島さんが感じる、近年の生活者における住まいに対する価値観の変化について。このお話は、また次回。