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投資財としての不動産(1)

インカムゲインとキャピタルゲイン

不動産投資とは対象の不動産を購入し、それを他人に貸すことで家賃というリターンを得ることです。

1000万円のマンションを購入して、そのマンションを月5万円で貸すと年60万円の売り上げになります。

投資金額1000万円に対して年間60万円のリターンなので、60万円÷1000万円=6%の運用ということになります。(簡単に説明しているので費用や税金などは一切考慮しておりません)

また、1000万円で購入した不動産が何年か後に1100万円で売却することができれば、100万円、つまり投資金額の10%のリターンを得ることもできます。

前者の家賃による収入をインカムゲイン、後者の売却による収入をキャピタルゲインといいます。

投資目的や投下資金のボリュームによって不動産投資も戦略が変わっていきます。

簡単に言うと、安定的な現金収入が目的であれば、インカムゲイン重視となりますし、3年で投下資金を倍にすることが目的であれば、キャピタルゲイン重視の投資にならざるを得ません。

その方法論やテクニックについては別稿にて説明することとして、不動産の投資財としての性質を挙げたいと思います。

家計簿_XL.png

投資財としての不動産の特徴はまず「現物性(実物資産)」です。

実物資産や現物資産というと、不動産のほかに金、美術品、高級自動車、競走馬、船舶などがあります。

ちなみに金は実物資産ですが、お金はどうでしょう?

硬貨は実物資産。紙幣は金融資産、仮想通貨も金融資産でしょう。世の中って複雑ですね。

他に替えることができない資産

その実物資産の中でも、不動産というのは個別性と非代替性が極端に強い資産です。

不動産は地球の表面における緯度と経度で特定された表層及びその上空空間を占有しているものです。
つまり、個々の不動産は同じものが一つとしてない唯一無二の財産です。

そのために強烈な個別性と、完全に等価値のものがまったく存在しないという非代替性が生じます。

○○町1丁目1番という土地があり、その隣に全く同じ面積の○○町1丁目2番という土地があっても、1番と2番の土地では道路の接道状態、日当たり、電信柱の位置、ごみ収集所があったりなどの違いがあります。

極端な話をすれば2番の西隣に口うるさい因業夫婦が住んでいることでも2番の土地の価値が下がる可能性もあります。

ということは逆にその個別性によって別の価値が生まれる可能性もあります。
「銀座の土地が欲しい」というのはその代表例です。

間取り図面と建築模型_XL.png

そのほかにも「富士山が見える」とか「海に直接行ける」「巨大な吹き抜けがある建物」「文豪○○が愛した部屋」などなど、一個一個の不動産は他の不動産に代えがたい価値を持っています。

住み慣れた自宅という不動産を最も高く評価するのは、そこに住んでいる人です。

この唯一無二の非代替性というのは美術品なども同じですね。

ある絵画が特定の人には非常に高く評価されたとしても、それ以外の人にとっては無地のキャンバスの価値ほどもないということは、不動産の場合でも同じです。

大阪に一度も行ったことがない投資家に天満橋の商業施設を勧めても何の意味もありませんし、交通利便を重視する人にオーシャンビューを自慢しても関係ないと思われるだけです。

また、100万円の財産しか持たない人はタワーマンションには興味を示さないでしょう。

不動産の場合、個別の物件に興味がなければその人にとっては何の価値もありません。

この性質は不動産投資においては非常に重要な要素になります。

低い価値しか認めていない人から買って、高い価値を認める人に売ればその差益を得ることができるからです(逆もあり)。
まさに不動産を事業として考える上での最も根源的な考え方です。

株価_XL.png

一方で、同じ実物資産でも金ではこのような商売はできません。金はだれが見ても金です。

Aさんがもっている金でもBさんが持っている金でも価値は全く同じで、グラム数さえわかればその価格も市場取引価格が常に判断できます。

つまり金の取引や価値においては、買い手や売り手の金への個人的な愛着などは一切かかわりがありません。

金の価格は株式や為替や、金そのものの価値によらない、世界的な経済情勢の短期的な動向に影響されて毎日毎秒の価格が決まっていくのです。

実物資産でありながら、投資効果や価値変動という意味では非常に金融資産的な特徴を持ちます。

その意味では不動産に携わる人には、結構、芸術品を扱うほどとまではいかなくても、それと同様の情緒的感覚が必要なのではないかと私は常々思っています。

利用しなければ価値が生まれない ⇒ 事業である

金のぶた_XL.png

実物資産には一般的に「紙クズにならない」という特徴があります。株式は会社が潰れて清算されてしまえば価値がなくなります。

FX取引などでは価値がなくなるどころかマイナスを生んで借金を背負うことになります。それに比べれば実物資産はその価値がなくなることはありません。

そうはいっても、競走馬は引退してしまえば維持費が出ていく負の資産になりますし、馬が死んでしまえば資産価値は当然なくなります。

ビンテージカーは時間が経つほど価値があがるかもしれませんが、手入れをせずに内燃機関がサビのかたまりになってしまえば、価値はかぎりなく紙クズに近づきます。

その中で不動産は「土地がなくなってしまう」ということがほとんどないのでさらに「紙クズにならない」と言われています。(激甚災害などでなくなってしまうことはあるのですが)

同じように金も、金として存在するだけで価値があるために紙くずになりにくい財産と言えます。

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しかしその一方、金がそこに存在するだけでその価値を認められるのに対して、不動産はそこに存在するだけでは本来の価値を創出することができません。

空き地は、何の経済価値も生み出さないどころか、税金で資産を減らすマイナス資産です。

土地が道路になってしまって、自分や他人が占有できなければ、資産であるとも言えません。

日本で一番高い公示価格5,000万円の土地を一坪(約3.3㎡)持っていたとしても、一坪では駐車場にもならず、住むこともできず、商売もできないわけですから実質的には5,000万円の価値はなく、実態は紙クズに近かったりするわけです。

不動産というのはそれを所有者自らが使うか、誰かが借りて使ってもらわなければ何の経済価値もない。不動産投資とは対象の不動産を自らもしくは他の人が「使う」ことが前提になるわけです。

不動産が多くの投資財と比較して、最も異なるのがこの点です。

投資とは文字通り資本(おカネ)を何かに投じることを指します。そしてお金を投じた後は、その投資対象物である株式や金や芸術品などの価格が勝手に動くことによって、投資家はリターンを得たり失ったりします。

要するに投資家はその投資対象物の価値を自らがコントロールすることはできません。
お金を投じた後に投資家ができることと言えば、その投資を継続していくか、やめてお金を回収するかの判断をすることしかないのです。

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しかし、不動産はまったく違います。不動産にいったんお金を投じると、その後に多くの仕事が発生します。空いた部屋があれば業者を使って入居者探しをしなければなりません。

入居者のクレームや不動産の競争力を高めるために修繕やリノベーションをしたり、無駄なコストがかかっていないか支出にも目を光らせなければいけませんし、その一方現場で働いてくれている管理会社とも友好な関係を作る必要があります。

そして借金も返していかなければならない。投資家の手腕によって投資不動産の価値が変わるのです。

つまり不動産投資というのは「投資」ではなく、事業なのです。

よく個人向けの不動産投資の世界で「不労所得で○○円かせぐ」というような本があったり、「これからは給料だけでお金に稼いでもらう」というコメントをする人がいますが、私としては冷笑せざるを得ません。

不動産投資には資産があって負債があって、キャッシュフローと顧客と取引先があるのです。これって、経営と同じではないでしょうか。

<本項、次稿に続く>  続きはこちら >> 投資財としての不動産(2)




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この記事を書いた人

株式会社インテリックス ソリューション事業部 杉山 憲三
大手不動産会社において20年以上に渡り収益不動産のマネジメントに従事。 累計約3,000億円の不動産プライベートファンドの運用に携わり、不動産の現物市場と金融市場の両面から不動産投資にアプローチします。