大手デベロッパーが新築マンションを分譲する場合、総額100億円を超える事業もめずらしくない。対して中古マンションの買取再販は1,000万円台の物件もあり、参入障壁は低い。新築の供給減少やストック住宅の増加を受け、大手デベロッパーをはじめ様々な業態の不動産会社が買取再販に参入しており、競合の多い市場といえる。
しかし、インテリックスにとっては競合と言い切れない側面も。他社が再販用に仕入れた物件の内装を「法人事業部」が請け負っているからだ。インテリックス空間設計 法人事業部長でグループ初の女性執行役員を務める石井はこう語る。「スペースも限られ、隣に人が住む環境での内装工事にはたくさんの制約があります。多くの新築を手掛けてきた大手デベロッパーであっても、一戸単位のリノベーションは未知の領域。自社マンションシリーズのコンセプトをいかに再販物件に盛り込むか、というブランディングの難しさもあるでしょう。そういった会社ごと物件ごとの意向をしっかりお聞きしたうえで、協力できる部分を考え、ご提案を重ねていきました」。法人事業部の業績は好調だが、「普通のリノベーション会社と違うから」と石井は柔和に笑う。自社で物件を仕入れ、内装で価値を高めて売ってきた経験の積み重ね…いわば「不動産業の視点」が備わっているゆえに、クライアントである不動産会社と同じ目線で考えられるのだ。
相手の想いを丁寧に測り、ともに理想へゴールする。インテリックス空間設計の仕事は、たとえるなら二人三脚である。その姿勢は個人ユーザーに対しても、法人に対しても変わらない。石井自身も法人事業部に来る前は、建築士として暮らす人、相手の想いを汲みながら設計を行ってきた。「下見から図面、見積り、資材発注、施工店との打合せから引渡しまでトータルで担当していました。年間4、50件ほどでしょうか? 多忙でしたが、女性が働きやすい環境でしたし、現場のわかる設計士になりたいと思っていたのでいい経験になりました」。組織の中でどの役割を担えばプロジェクトがうまく回るか―。常に自分の立ち位置を「測って」きた石井。執行役員就任については「できることをやってきただけ」と小さな声で語るが、その足元には地層のように厚く積み重ねられた確かな実績がある。インテリックスのリノベーションを擬人化したら、彼女のような人物像になるかもしれない。
そんな石井の次なる目標は「新たなスタンダードの構築」だという。「2025年には新築住宅に省エネ基準の適合が義務化され、中古住宅市場においても省エネ基準の達成は重要になるでしょう。しかし、数値的な証明根拠などの難しさもあり、各社が手探りしています。インテリックスがかつてリノベーションの品質や検査方法を確立してきたように、省エネのスタンダードを業界と一緒に作っていきたいですね」。エコキューブ事業を通して積み重ねてきた省エネの知見や技術力の上に、「業界スタンダード」という新たな地層が加わる日も遠くはないだろう。